【怪談】投稿
投稿
私が大学生だった頃の話です。僕は普通の大学生で、友達と連絡を取るためにSNSをよく使っていました。最近、ホラー小説の短編を投稿するのが趣味になり、少しずつフォロワーも増えていました。僕の小説は、過去の自分の体験を元にした、誰にも言えないような恐怖を描いたものでした。
ある夜、雨が降る中、僕は自分の部屋で次の小説を書くためにパソコンに向かっていました。窓の外で雨音がリズムを刻む中、静かな部屋で思考を巡らせていると、スマホの通知音が鳴りました。新しいコメントがついたようです。
見ると、「それ、あの時のことだよね?」というコメントがありました。僕しか知らない、自分だけの過去の出来事に触れているのです。誰かのいたずらかと思いましたが、驚いたことには変わりありません。少し不安になりながらも、返信しました。「どういう意味?」と。
その後も投稿を続けるたびに、同じアカウントからのコメントがつきます。まるで僕の心の奥深くを読んでいるかのように、誰にも話したことのない秘密や恐怖を正確に言い当ててくるのです。特に、昔体験した夜道での恐怖や、友達にも話せない家族の問題など、具体的なエピソードが次々と指摘されました。
それから数日が経ち、僕はだんだんと追い詰められていく気がしていました。部屋の空気が重く感じられ、原因不明の湿度に包まれているような気さえしました。夜も眠れず、投稿するたびに心臓がドキドキと音を立てました。それでも、その正体を知りたくて、僕はまた投稿し続けました。
ある晩、自分の部屋で再び投稿作業をしていると、ふと背後に視線を感じました。振り返ったけれど、誰もいません。ただ、冷たい空気が僕の頬を撫でた気がしました。そのとき、新しいコメントが届きました。
「今、後ろにいるよ。」という内容。
恐怖で凍りつきました。スマホを手に、震える指で画面を見つめるしかありませんでした。そこには新しいメッセージが。「あなたが逃げられないこと、知ってるよ。」
恐ろしさに耐え切れず、僕はスマホを置いて部屋から逃げ出そうとしました。でも、ふと気づいたのです。これまでの投稿に対するコメントはすべて、僕自身が忘れたいと思っていた過去や不安を正確に言い当てている。まるでそのアカウントは、僕の内面を全て知っていたかのように。
そして、最後のコメントが更新されました。
「もうすぐ、あなたも私になる。」
部屋の空気が一層冷たく感じられ、僕は立ち尽くしました。逃げ出す勇気も、何もかも失くしてしまったことに気づいたのです。それでも、心のどこかで理解していました。そう、僕が恐れていたのは、ずっと自分自身だったのだと。
それ以来、僕はSNSに投稿することをやめました。でも、そのアカウントからの通知音は、今でもたまに聞こえる気がします。まるで、まだ僕を監視しているかのように。そして、ある日、画面を見ていないのに、確かに耳元でその音が鳴ったのです。恐怖に包まれたまま、僕はただ立ち尽くすしかありませんでした。
解説
この話の恐怖の本質は、主人公が自分の内面に潜む恐怖や秘密に直面し、それが逃げられない状況を生み出す過程にあります。彼はSNSを通じて、誰にも話していない過去の出来事を知られてしまい、それが最終的に自分自身を脅かす存在に変わっていくのです。
物語の初めでは、主人公の投稿に寄せられるコメントが違和感を引き起こします。「それ、あの時のことだよね?」という言葉は、彼が隠していた過去を知る者がいることを示唆しています。この時点では、主人公はその正体を理解できず、驚きつつも興味を持って返信を続けます。
コメントが続くにつれて、彼の心の奥に潜む恐怖や過去の出来事が次第に明らかになり、恐怖感が増していきます。「今、後ろにいるよ。」というコメントが届くシーンでは、背後に何かがいるという恐怖が強調されますが、実はそれは彼自身の内面的な恐怖の具現化とも言えます。
ラストでの「もうすぐ、あなたも私になる。」という言葉は、主人公が外部からの脅威ではなく、自分自身の恐怖と向き合わざるを得ない状況にあることを示しています。彼は自分の過去を直視できず、その恐怖から逃げようとしていたのに、結局はその恐怖が彼自身を支配してしまったのです。
この物語は、SNSという現代のコミュニケーションツールを通じて、他者とのつながりがどれほど自分自身の内面を反映し、またそれがどれほど危険であるかを描いています。主人公が恐れていたのは、単なる外部からの脅威ではなく、彼自身の過去や心の闇であり、それが彼を逃げられない状況に追い込んでしまったのです。
物語を読み返すと、主人公の内面的な葛藤や恐怖がコメントを通じて巧みに描写されていることがわかります。彼がSNSに投稿することで自分の恐怖を外に出そうとする一方、その恐怖が逆に彼を飲み込んでしまったという構造が、物語の恐怖をより深いものにしています。
まだ眠れそうなら、次の怖い話へ。
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